熱中症を予防する、水分補給

コロナ対策の中ですが、本当に溶けそうな猛暑になっていますね…。


熱中症で搬送、死亡というニュースも増え、熱中症対策として水分補給を呼びかける報道や記事、SNS等の投稿を見聞きする機会も増えてきました。


ただ、この水分補給の呼びかけ…よくよく見ていたら、ツッコミどころ満載だな!ということも少なくない印象です。


なので、6月のブログにも水分補給について軽く書いていますが、ちょっと一時、シリーズで水分補給を検証してみようかと思います。


日本人の食事摂取基準[1]には、水分の摂取量について何か記載があったかな?と思い、確認してみたところ、2020年版のp. 374に、「〈参考〉水」という項目を見つけました。

〈参考〉とは?と思いつつ見てみると、日本人の水の摂取量を調べた信頼できるデータは1つの文献しかなく、必要量を算出する十分な根拠がないということが書かれていました。


その一つの文献[2]も紹介しながら、私が思う主なツッコミどころ二つ、

① 水分と塩分補給…食事の存在を忘れていません?

② 飲み物をスポーツドリンクや経口補水液に置き換えるのは、ハイリスクでは⁉

について書いてみようと思います。


① 水分と塩分補給…食事の存在を忘れていません?

長野、大阪、鳥取、沖縄に住む、日本人男女242名の水分摂取量を調査で[2]、夏場の4日間の平均的な水分摂取量は、2331 ± 667 ml (平均値 ± 標準偏差)だったと報告されています。

そうか、平均的には2ℓ以上の水分補給が必要なのか。コップ10杯以上?なかなか厳しいぞ…。

ということでは、ありません

なぜなら、この数字には飲料からの摂取と、食事・食品からの摂取の両方が含まれているからです。

この調査報告の対象者では、平均としては夏場の水分摂取の約47%が食事や食品(汁物を含む)由来です。この割合は、冬の平均約53%よりは少ないですが、年間平均で水分摂取の約50%は食事由来だったことが報告されています。

飲み物以外からの水分摂取に最も貢献しているのは野菜・果物。続いて汁物…ではなく、四季の平均としては「穀類」のほうが貢献しています!…糖質制限ダイエットは、水分補給の面からもリスクがあるといえそうです。(脱水になれば体重は減るでしょうけれども…)

穀類、おかず、野菜・果物、汁物と、食事をきちんと食べている人であれば、一日に必要な水分の約半分は食事からとれるわけです。ですので、飲み物ばかりに目を向けずに、「食事を抜かずにしっかり食べる」ということも熱中症予防の水分摂取として、もう少し強調されてもいいのに…と思います。

残念ながらこの研究、塩分摂取量は報告されていないのですが、みなさまご存じの通り、日本人の塩分摂取量は多く、食事摂取基準[1]でも、もっと摂取を減らすよう推奨しています。

食事摂取基準のp.267には、汗をたくさんかいた場合の水分補給時の、塩分添加の必要性に触れられていて、1997年の運動後の水分補給についての文献[3]が参照されています。(海外のレビュー文献です)

20年以上前のものですし、全文は見れなかったのですが、要約には固形の食物と同時摂取するなら、そこから電解質の補給ができるので、水分補給は水でもOKということも書かれていました。

水分補給としてせっせと塩分を摂ることを考える前に、これだけ塩分を摂取している日本の食習慣に、負荷的な塩分摂取が必要なのか?もう少し検討してみるべきかもしれません。

スポーツ栄養の研究では、実際に運動時の発汗量、塩分濃度を計測し、必要な水分・塩分補給の量が一人ひとり算出されています。水分の摂取量に関しては、スポーツ現場や汗をたくさんかくお仕事では、着替えの際など、運動・仕事の前後に体重を測って、水分をとっているつもりでもどれくらい体重が減るのか、チェックすることができます。トイレに、脱水の注意を促す「尿の色チャート」を掲示しておくのも効果的かもしれません。塩分に関しては、アスリートは必要な栄養量も多いので、食事量も多く、一般の人の平均より多くの塩分を摂取していることがよくあります。黒っぽいシャツで汗をかくと塩が浮いてくるような人は、汗で失った塩分が多いといえます。

食事の状況や発汗量、失った塩分量を無視してみんなひとくくりに、「スポーツドリンクや経口補水液、梅干し、塩飴で塩分補給!」というのは、あまりにも大雑把だな…と思います。


② 飲み物をスポーツドリンクや経口補水液に置き換えるのは、ハイリスクでは⁉

上記の日本人の水分摂取量の調査[2]では、飲み物の種類を(1)水、(2)牛乳・乳飲料、(3)お茶(緑茶、麦茶、ウーロン茶、紅茶など)、(4)コーヒー・ココア、(5)ジュース、ソフトドリンク、スポーツドリンク、野菜ジュース、エナジードリンクなど、(6)アルコール類、の6つに分けて摂取量を報告しています。

季節を問わず、ダントツの摂取量第一位は、(3)のお茶。さすが日本、という感じです。そして、夏場の第二位は、(6)のアルコール(ちなみに年間平均では(4)コーヒーが二位です)。栄養士としては、ちょっと苦笑いですね。夏のランキングでは、(4)コーヒー、(1)水、(2)牛乳、(5)ジュース、と続きます。

この調査は、特に栄養指導などを行ったわけではない、健康な方が対象なので、ある程度、日本人の飲み物への嗜好の傾向を反映しているのではないでしょうか。

しかし、熱中症予防で呼びかけられるのは…?

利尿作用があるから、これはダメ!水中毒のリスクがあるから、これはダメ!糖分がこんなに入っているから、これはダメ!

…結果、スポーツドリンクや経口補水液を買い込んでいる人も少なくないかもしれません。

でもこれ、大好き!っていう人もまれにいるかもしれませんが、上記の調査の日本人の嗜好には、合っていません。当たり前ですが、人間、好きでもないものをそんなに積極的には飲みません。こんなふうに、あれダメ!これダメ!ということ自体、逆に脱水、ひいては熱中症のリスクにつながってしまうのではないかな…と思います。

健康な人や、運動などで汗をかいた人が運動の強度や汗の量に合わせてスポーツドリンクを飲むならいいですが、糖尿病のある人が、スポーツドリンクを買い込んだせいでどんどん飲んでしまったりすると…危険です。実際、糖尿病の患者さんではスポーツドリンクを飲むことで血糖値が上がってしまって、さらにのどが渇いてもっと飲んでしまう、ということもあり得るので危険です。

経口補水液は、商品ページ(https://www.os-1.jp/faq/15/)にも書かれている通り、嘔吐・下痢や食欲の低下などで、すでに脱水になってしまった場合のためのものです。ちょっと水分補給足りなかったかな、食欲出ないけど水分補給しなきゃ、というような時には便利で、脱水から熱中症に進行するのを防ぐ、という意味では大切かと思います。…経口補水液がなくても、汁物を飲んだり、塩分のあるものをつまみながら水分を摂れればそれでもいいのですが。だるさや熱感があって水分も摂れないような時は、体を冷やし、無理せず病院を受診してください!

飲み物の利尿作用、水中毒のリスク、糖分についても追い追い書いていこうと思いますが…あんまりダメダメ言わず、持病なども踏まえながら、おいしい食事、おいしい飲み物を楽しみつつ、必要な水分を摂れるのが一番だな、と思います。


単純なようで、なかなか奥が深い水分補給。

氾濫する情報に、イライラしながら一人でツッコんでいたって仕方がないので、笑。

ちょっとずつ調べながら、考えをまとめてみようと思います!


…水だけで、だいぶ語れます。


参考文献:

1. 日本人の食事摂取基準(2020年版)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

2. Tani Y et al. The influence of season and air temperature on water intake by

food groups in a sample of free-living Japanese adults. Eur J Clin Nutr

 2015;69(8):907-13. doi: 10.1038/ejcn.2014.290. 

3. Maughan RJ, Shirreffs SM. Recovery from prolonged exercise : restoration of water

and electrolyte balance. J Sports Sci 1997;15:297─303. doi: 10.1080/026404197367308.

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