水分補給:利尿作用で逆に脱水⁉
もともとは紅茶派で、土日にたまにコーヒーを淹れるくらいだったのですが、お出かけできなくなった最近は、コーヒー豆を人力で挽いて、のんびりおうちコーヒータイムをする機会が増えています。
毎日アルコールを飲む習慣はありませんが、餃子の時と焼き肉の時はビール!おいしいチーズを買ってきたらワイン!充実のおうち時間には、アルコールも良いアクセントになってくれます。
そんな中、少し気になるのは、コーヒーやアルコールのような利尿作用がある飲み物は、水分補給にはならない!むしろ脱水を悪化させてしまう!というような情報を目にすること。
スポーツ界では、カフェインを競技力向上のために使用したり、練習や試合後にビールで乾杯!の文化があったりするので、利尿作用の影響は、スポーツ栄養でも重要なトピックです。
今日は、
① 飲み物13種類、どれが水分補給効果が高いのか実際に比べてみた研究
② コーヒーと水、アルコールとノンアルを実際に比べてみた研究
を紹介してみようと思います。
① 13種類の飲み物を飲み比べて、尿量を実際に調べてみた研究[1]
IOC Diplomaの恩師でもあり、特に水分補給やスポーツサプリメントについてたくさんの研究・文献執筆をされているMaughan先生たちのグループのこちらの研究では、基準となる水、利尿作用が気になるコーヒーや紅茶(ホット・アイス)・ビール、水分補給として推奨されることの多いスポーツドリンクや経口補水液のほかにも、炭酸水、コーラ、ダイエットコーラ、オレンジジュース、さらに牛乳、無脂肪牛乳を飲んだ場合を比較しています。これらの飲料を、絶食状態ですが脱水ではない状態で1L飲んで、2時間後までの尿量の比較から、どれくらいの水分が体に保持されるかを示す水分補給インデックス(Beverage Hydration Index: BHI)を算出してみています。水は全員が飲み、各飲み物は15-17名が飲んでいて、対象者は18₋35歳の活動的な男性です。
その結果…水のBHIを1とした場合、ひとつひとつの飲み物の数値はすべては報告されていないのですが、グラフを見る限り高いほうから、
無脂肪乳: 1.58 > 経口補水液: 1.54 > 牛乳: 1.50 > オレンジジュース > コーラ > ダイエットコーラ > アイスティー > ホットの紅茶 > スポーツドリンク > 炭酸水 > 水: 1 > ビール > コーヒー
となり、オレンジジュースまでは水と比較して有意差がありましたが、その他の飲み物は有意差なしでした。スポーツドリンクと水に有意差も数値的な差もほとんどない、というのは正直に言って意外でした。私もスポーツドリンク信仰にちょっと洗脳されていたのでしょうか。
この研究は絶食状態で行われているので、食事がとれない時の水分補給として経口補水液が勧められたり、「朝食を食べる習慣がない人もせめて牛乳を!」というような啓発がされたりするのも、水分補給の点からつじつまがあうのかな、と思います。食事がとれる場合は、食事の影響も意識してほしい、というのは前回のブログで書いたとおりです。
有意差がなかったコーラ以下9つの飲み物では、2時間経過時の尿量がどれも1Lを超えていて、飲み物を飲む直前と比較すると水分バランスはマイナスですが、この研究では1Lの飲み物を飲み始める1.5時間前にも水500mlを全員が飲んでいるので、逆に脱水を引き起こしているか?と言われるとそうでもないかもしれません。ただ、1時間経過時ではどの飲み物でも水分バランスはプラスなので、利尿作用があるからといって急激に脱水になるものではなく、(まあ、一気に1L飲まないにしても)特に汗をかかなくても1-2時間ごとにちょこちょこ水分をとれば、利尿作用を気にして好きな飲み物を楽しめない、という必要はなさそうです。
② コーヒーと水、アルコールとノンアルの利尿作用を実際比べてみた研究
カフェインには利尿作用があるから、お茶やコーヒーにも利尿作用がある、という話をよく聞きます。カフェインの利尿作用については、長年研究がされていて、今回紹介しようと思った研究[2]のイントロでも、500mg以上のカフェイン摂取で利尿作用があることが述べられています。ただし、実際コーヒーではどうか、となると直接調べた研究は少なく、コーヒーを習慣的に飲んでいる人が5日間コーヒーを断って、そのあとコーヒー6杯を摂取すると利尿作用が見られたことや、習慣的にコーヒーを飲んでいる人がそのまま3杯程度飲んでも利尿作用は見られなかった、という報告も紹介されています[2]。そこで、この研究[2]では、①の1Lのコーヒーを一気に飲む、というやり方より現実的な、朝から夕方にかけて食後や間食時にコーヒー4杯を飲み、それを3日間続けた場合の体内の水分状態を見ています。対象者は普段から1日合計1L弱のコーヒーを飲んでいる18-46歳の男性50名です。
その結果…同じ対象者がコーヒーと同じタイミングで同量の水を摂取した3日間と比べて、体内の水分状態に有意差はありませんでした。
普段から1L飲むっていう人は日本には少ないかもしれませんが…、こちらの研究もコーヒーを遠慮なく楽しむことを後押ししてくれる結果です。
そして、夏の楽しみといえばビール!
脱水状態をさらに悪化させてしまうのか?という疑問の一つの答えになるのが、ノンアルビール vs. アルコール入り1Lを飲んだ場合の4時間の尿量の変化を、さらに体重の約2.5%の脱水状態 vs 脱水ではない状態で比較してみている研究[3]です。対象者は平均23歳の12名の男性で、全員が脱水・脱水なし、ノンアル・アルコールの4つの条件すべてを測定しています。
1Lのノンアルビールまたは4%アルコール入りノンアルビール(盲検化のため、通常のビールではなくこういう研究デザインになっています)を飲むと、最初の一時間の尿量は、脱水がない場合だとググっと増え、アルコールで643 ± 303 ml*、ノンアルで599 ± 205 ml*と飲んだ量の平均約6割ほど出ていきます…が、脱水状態ではアルコール113 ± 81 ml*、ノンアルで70 ± 30 ml*と1割程度に抑えられます。脱水状態でもアルコール入りのほうが40%も尿量が多いじゃないか!とも見えますが、統計的な有意差はないようです。4時間の尿量の合計で見ても、脱水がない状態だと、アルコール・ノンアルを問わず尿量は1Lを超え、アルコール入りのほうが12%尿量が多くなっていますが、脱水状態だと、尿量は脱水がない場合の15-20%程度に抑えられていて、実際、脱水の度合いも水分摂取前には体重の2.5%の脱水だったのが、4時間後にはノンアルで1.7%、アルコール入りでも1.9%に回復しています。(*平均 ± 標準偏差)
つまり、この研究結果は、脱水の時にビールなんか飲むとよけい脱水になっちゃうよ!という考え方を支持していないということです。有意差はないとは言え、ノンアルのほうがどちらかというと少し優秀には見えますけどね。
アルコールが利尿作用を引き起こすメカニズムを知っていることや、アルコールを飲むともっと脱水になってしまうんじゃないか?という仮説を立ててみるのはいいことですが、実際やってみると違ったわけです。よくあることです。
運動後のアルコール摂取は、糖質の貯蔵の回復や筋肉の増強にも影響があるので、利尿作用は心配しなくていいのでどうぞ飲んでください!と勧める前に他にも考えないといけないところはありますが。…そのあたりは、またそのうち。
水分補給には、経口補水液やスポーツドリンクは〇で、コーヒーやビールは✖!みたいに単純化したくなるのも分からなくはないですが、スポーツ栄養の女王・Burke先生がよくおっしゃるとおり、栄養学って白か黒か?っていうはっきりした答えがでるようなものではないのです。
経口補水液が適するケースもあれば、スポーツドリンクのほうがいい時もあるし、だからといってそれはコーヒーやビールを否定する理由にはなりません。
上の写真みたいに、水分補給インデックスが高い牛乳と、低いコーヒーが混ざっていたら…文字通りグレーゾーン?ひとつひとつに白黒つける必要もないわけです。
飲み物の成分の特徴や、自分の身体がカフェインやアルコールにどう反応するのかを知っておくことは大切ですが、必要以上に楽しみを奪うのは脱水・熱中症予防の意味でも逆効果になりかねません。健康・栄養の専門家のみなさま、実際にやってみた結果の積み重ね=エビデンスも示さず、あれダメこれダメ言わないように気を付けましょ。メカニズム+仮説はエビデンスではないので要注意です!
参考文献:
1. Maughan RJ et al. A randomized trial to assess the potential of different beverages to affect hydration status: development of a beverage hydration index. Am J Clin Nutr 2016;103(3):717-23. doi: 10.3945/ajcn.115.114769.
2. Killer SC et al. No evidence of dehydration with moderate daily coffee intake: a counterbalanced cross-over study in a free-living population. PLoS One 2014;9(1):e84154. doi: 10.1371/journal.pone.0084154.
3. Hobson RM & Maughan RJ. Hydration status and the diuretic action of a small dose of alcohol. Alcohol Alcohol 2010;45(4):366-73. doi: 10.1093/alcalc/agq029.
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