炭水化物は「太る」か?

クリスマス、お正月…おいしいものを楽しむ機会が増える季節ですね!

・肉はたくさん食べてもいいけれども、甘いものやお餅は我慢しなければ…

・筋肉を鍛えているんだから、糖質なんか普段から目もくれないぜ!

というかたもいるかも?ですが。

今日のテーマは、「炭水化物って、本当に太るのか?」についてです。


炭水化物を制限すると、1週間もしないうちに体重が落ち、

でも長続きしなくて、炭水化物をガッツリ食べてしまうと瞬く間に体重が戻る、

またはリバウンドでさらに体重が増える…ということはよくあることかもしれません。


でも、だからといって「炭水化物は悪者だ!」というのは、少し気が早いかも

炭水化物を減らしたり増やしたりしたときの、体重の増減のカラクリを見てみようと思います。


1.増えたり減ったりしているのは何か?


体重階級のある競技などのアスリートのための体重管理についてのレビュー(1)の、「Glycogen, bound water and acute weight loss」、意訳すると「グリコーゲン、結合水と急激な減量」というパートの第一段落目に、体内の炭水化物貯蔵とそれによる体重への影響について、具体的な数値が例示されています。

分解しながらみていくと(※かっこ内はブログ著者による補足)、

・炭水化物は、筋肉や肝臓の中にグリコーゲンとして蓄えられる

このグリコーゲン、1g蓄えられる時に水 2.7 gも一緒に蓄えられる

・蓄えられるグリコーゲンは、肝臓の重さの~8 % 、骨格筋の重さの 1-2 %

(つまり水+グリコーゲンだと、肝臓の重さの~29.6 %、骨格筋の重さの 3.7-7.4 %)

・体重75 kg、筋肉の重量が体重の60-65 %(45-48.75 kg)で、平均的な肝臓重量1.56 kgの人の場合、

  ・肝臓に蓄えられている水+グリコーゲンは、~462 g

  ・筋肉に蓄えられている水+グリコーゲンは、1665-3610 g

・もちろんこの数値は単なる理論上の推定ではあるけれども、グリコーゲンの貯蔵を減らすことは、アスリートの急激な減量に有効な手法の一つ

ということが説明されています。

ですから、ちゃんと運動もして、炭水化物制限をしたら一気に体重が落ちた!…けど続かなくてすぐ戻った、という場合にはこの「グリコーゲンと水」による体重の変化が考えられます。



2.それって、いいこと?悪いこと?


つまり、料理好きの方はお気づきかもしれませんが、この体重の増減は、

「ぱさぱさの鶏むね肉 ↔ 砂糖水に付け込んだみずみずしい鶏むね肉」

のような変化なので、体脂肪が減っているわけではありません

例えば、75 kgの人の体脂肪率がもともと20 %(つまり、体脂肪量15 kg)だったとすると、この方法で一時的に2kg減ったとしてもそれは体脂肪を除く部分なので、脂肪の重量は理論上変わらず、体脂肪率は20.5 %になってしまいます(ちなみに、水分摂取不足等で脱水での体重減少の場合も同様です)。

肝臓のグリコーゲンは、絶食状態の時間が長い場合(夜寝ている間など)に減り、筋肉のグリコーゲンは運動により減ります(減り方は運動の強度等で様々)が、筋肉のグリコーゲン貯蔵が低い状態で運動すると高い運動強度ではマイナスの影響が出ることや、リカバリーの時に筋肉のグリコーゲンが低いままだと、タンパク合成(筋肉などを作る働き)が落ちてしまうことが報告されています(2)。

逆に、グリコーゲン貯蔵が低い状態で運動することで、脂質を燃やしたりエネルギーを作り出したりするのにカギとなるタンパク質の発現が増えることも分かってきています(2)。スポーツ界で低炭水化物食が「カルチャー」になるのは、こうした体感があるからかもしれません。



3.あなたの競技、やせる目的、タイミング次第!


というわけで、あなたの目的が計量パスなど、「とにかく体重を落とす!」であれば、短期的に炭水化物を控えるのは効果的です(ただし他にも、塩分を控えるなどいろいろな方法もありますし、マイナスの影響が出ないような注意は必要です; 1)。→このあたり、2021.3の「スポーツ栄養士の図書館」で取り上げる予定です。

ただ、じっくり体脂肪を減らしていきたいのであれば、やみくもに炭水化物を減らすのではなく、体やトレーニング等への影響を最低限にしつつ、目的を達成できるエネルギー設定などを含めてきちんと計画しないと、「良い食べ物・悪い食べ物」という考え方が行き過ぎて摂食異常の状態になってしまったり、減量と(意図的ではない)リバウンドを繰り返してしまったりするリスクが考えられます。

フィジークアスリートなど、トレーニング効果を大きくすることが重要で、競技時には高い運動強度は必要とされないケースもあるかもしれませんが、体重が軽い方が有利であるわけでもなく、運動強度の高いパフォーマンスが求められる競技や、連日の試合などで日々のリカバリーが重要な競技などでは、長期的な低炭水化物食をオススメする理由は私には見つけられません…。

減量とはまた目的が異なりますが、ファットアダプトやケトジェニックダイエットなど、糖質を下げて脂質を増やした状態でのトレーニングが続くと、エネルギー源として脂質を利用しやすくなると考えられるので(2)、ウルトラマラソンやトレイル・ランなど、糖質補給では必要なエネルギーを補いきれないような競技での有効性が期待されますし、実際に糖質を制限し脂質を増やす方法を用いて結果を出しているアスリートもいらっしゃいます。ただ、現時点で持久系競技パフォーマンスへの効果の研究結果はまちまちです(2)。

とはいえ、低炭水化物食によりトレーニング適応を上げる効果は、アスリートには気になるところ。高炭水化物食の良いところ(高い運動強度での有効性、疲労感の軽減や疲労回復などなど)と、低炭水化物食によるトレーニング適応向上効果の「イイとこ取り」をする、これまでよりも細かい「栄養の期分け」というアプローチも、栄養がより一層スポーツに寄り添う形として注目されています。←2020.11の「スポーツ栄養士の図書館」テーマでした。

炭水化物は太る!アスリートなら低炭水化物と決めつけてしまわず、炭水化物をもっと戦略的に使いましょ。


糖質について、とても一回の記事では網羅できないですが、今回は主に短期的な糖質制限についてグリコーゲン貯蔵に着目してみました。

炭水化物が増えたり減ったりすると、体重も増えたり減ったりしますが、その大部分は水とグリコーゲン!というのを知っていれば、不必要に一喜一憂しなくて済むかもしれませんね。

体脂肪を落とそうかな、とかアスリートは低炭水化物だよね、という感じで長期的な糖質制限をしている・しようとしている方は、自分の競技にデメリットがないか、慢性的なエネルギー不足に陥って自分の健康を害する危険がないか、もう一度考えてみて欲しいなと思います。


参考文献:

1. Reale R, Slater G, Burke LM. Acute Weight Loss Strategies for Combat Sports and Applications to Olympic Success. Int J Sports Physiol Perform. 2017;12(2):142-151. doi:10.1123/ijspp.2016-0211

2. Impey SG, Hearris MA, Hammond KM, et al. Fuel for the Work Required : A Theoretical Framework for Carbohydrate Periodization and the Glycogen Threshold Hypothesis. Sport Med. 2018;48(5):1031-1048. doi:10.1007/s40279-018-0867-7

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