どうして「フードファースト」なのか?

2021.4月のスポーツ栄養士の図書館では、「抗酸化成分の摂取とフードファーストアプローチ」というテーマで、学びを深めてみました。


フードファーストアプローチ、つまりサプリメントありきではなく、まずは食事・食品を優先させるという考え方は、スポーツ栄養でも強調されています。例えば、最近発表された欧州サッカー連盟 (The Union of European Football Associations: UEFA) の栄養に関する声明(*1)には、「フードファースト」の考え方を推奨・支持すると書かれており、「フードファースト」という言葉がなんと7回も登場します。


とはいえ、食品だと狙った成分の量に幅が出てしまったり、提供するにしても指示を守ってもらうにしても手間がかかったりすることから、スポーツ栄養の介入研究の多くは、食品ではなくサプリメントを使用したものである、という現状もあります。


「栄養士の人たちは、料理が好きな人も多いし、サプリなんて手抜きだからいけないって言いたいんでしょ!」と思われていそうな節もありますが…

食事や食品、またサプリそれぞれに良い/便利なところ、悪い/不便なところがあるとはいえ、もし、よかれと思ってお金をかけて飲んでいるサプリが、栄養素が「取れすぎる」ことで逆効果になっている可能性があるとしたら?


今月学んだ、活性酸素と抗酸化成分、そして筋肉の運動適応(例えば、運動した部分の筋肉が大きくなったり、筋力がアップしたりすること)に関しては、あるストレス(ここでは活性酸素)が増加することに対する生理学的反応(ここでは運動適応)が下図のようにベル型になる「ホルミシス理論」(*2) が当てはまるのではないか?という考え方が興味深かったのでご紹介します。

※「ホルミシス」ってあまり聞き慣れない言葉だったので一般の検索エンジンでも引いてみたところ、ガン療法などの情報が出てきましたが、この記事での記載は「ホルミシス療法」に関するものではありません。

「活性酸素」というと、サビの根源!老化!有害!とマイナスのイメージが強いですが、運動などによる適度な活性酸素の増加(図の横軸の真ん中程度)は、体の中でエネルギーを生み出すエンジンであるミトコンドリアの生合成や、抗酸化システムを活発にさせる働きがあるようです(*2)。


ただ、これが例えばハードなトレーニング合宿だったり、高地トレーニングだったり、連戦での追い込みだったりして活性酸素の発生が多すぎる(図の横軸で右に移動)状態になると、体内の抗酸化力を活性酸素が上回ってしまい、一時的な筋力の低下や炎症・損傷につながってしまいます(*2)。


そこで、抗酸化成分を積極的に摂取してこのマイナスの影響を防ごう、という考え方が出てくるのですが、サプリメントを用いた介入研究ではなかなかこれが良い方向に効果が出ない…これは、サプリメントでは成分の量が多すぎて、活性酸素を除去しすぎてしまう(図の横軸で左に移動)から、または体内で余った抗酸化成分が逆に酸化促進剤になってしまい、一旦少なくなった(横軸の中央付近に移動した)活性酸素がまた増えてしまう(横軸の右方向に逆戻り)のかもしれないことが考えられます(*2)。


それなら、サプリメントで成分をドーンと体に入れるより、抗酸化成分を多く含む食品を組み合わせて、食品ならではの相互作用も狙ってみたらどうだろう…?という研究をマウス(*3)そしてヒト(*4)で発表されたのが、今回セミナーを依頼した、スポーツ栄養士で研究者の河村亜希さんです!

まずマウスの研究(*3)で、タンパク質合成が促される可能性のある抗酸化成分のアスタキサンチン、β-カロテン、レスベラトロールをそれぞれ単品で強化したグループと、3つの成分を少しずつ組み合わせたグループをコントロール群と比較し、3つを組み合わせると筋肥大に有効そうだ、ということを確認された後、ヒトの研究(*4)ではアスタキサンチンは鮭フレーク、β-カロテンは野菜ジュース、レスベラトロールはリンゴンベリー(コケモモ)のジャムを提供し、それらと普段の食事から抗酸化成分を意識して摂取してもらうという栄養介入、さらにトレーニングを組み合わせて、運動適応への効果をコントロール群と比較され、有効性を示されています。

ヒト研究の対象者はトレーニングを積んだ人ではない、ということでアスリートにもこれが当てはまるか、という点はまだ検討が必要そうですが、とても興味深い結果だと思います。また、食品提供と栄養指導を用いた介入で、普通に食事をとっていたコントロール群と比べて一日平均でアスタキサンチンは9倍、β-カロテンは6倍、レスベラトロールはコントロールが0に対して45μgとれているというのも、意識するとずいぶん違うんだな~と印象的でした。


マウスの研究を発表された時点でもとても興味のある分野だったのですが、スポーツ栄養というとやっぱりヒトでのエビデンス…ということで、ヒト研究を読ませていただいてすぐにセミナーを依頼したという次第でした。上記の「ホルミシス理論」の文献も、セミナーの中で紹介していただいたものです。

今後も、KAGO食スポーツさんとのコラボレーションでのセミナーは、スポーツ栄養士の図書館の管理人だけではなく、ゲストスピーカーもお招きしていこうと思います。お楽しみに!


運動しないのも体に良くないけれども、運動によって活性酸素が増えすぎるのも、過ぎたるは及ばざるが如し。

サプリメントでそれを減らしすぎたり、抗酸化成分が有り余ってしまうのも、過ぎたるは及ばざるが如し。


「ホルミシス理論」は、トレーニングがきついときの活性酸素対策には、カラフルな食事をまずはおいしく食べましょう!とオススメできる一つの理由になるかな、と思います。



*参考文献:

(1) Collins J, Maughan RJ, Gleeson M, et al. UEFA expert group statement on nutrition in elite football. Current evidence to inform practical recommendations and guide future research. Br J Sports Med. 2021;55(8):416. doi:10.1136/bjsports-2019-101961

(2) Hawley JA, Burke LM, Phillips SM, Spriet LL. Nutritional modulation of training-induced skeletal muscle adaptations. J Appl Physiol (1985). 2011;110(3):834-845. doi:10.1152/japplphysiol.00949.2010

(3) Kawamura A, Aoi W, Abe R, et al. Combined intake of astaxanthin, β-carotene, and resveratrol elevates protein synthesis during muscle hypertrophy in mice. Nutrition. 2020;69:1-7. doi:10.1016/j.nut.2019.110561

(4) Kawamura A, Aoi W, Abe R, Kobayashi Y, Kuwahata M, Higashi A. Astaxanthin-, β-Carotene-, and Resveratrol-Rich Foods Support Resistance Training-Induced Adaptation. antioxidants. 2021;10:113. doi:10.3390/antiox 10010113

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