陸上競技のための栄養・前編

今年2019年、IAAF国際陸上競技連盟より、2007年以来となる栄養に関するコンセンサスステートメントが発表されました(文末のリンク参照)。


今月の”スポーツ栄養士の図書館”(https://www.facebook.com/groups/757956407985960/)でもメインテーマとしてご紹介しています。


日本陸上競技連盟のホームページよりダウンロードすることができる、2007年版の日本語訳を参照しながら、変更点や新たに追加された事項を検証してみました。


2007年版では①短距離、②中距離、③長距離、④投てき・跳躍・混成、⑤体格、⑥女性アスリートの三主徴、⑦ジュニア期、⑧水分補給、⑨疲労と病気、⑩サプリメント、⑪基質利用、⑫遠征、の12のテーマで書かれていたようです。


2019年版では、①~④の競技グループ+マラソンより長い超長距離/山岳ランニングの5つの競技グループごとの一般的な特徴とカギとなる栄養課題・戦略は「表1」にまとめられ、本文は①栄養の期分け、②エネルギー、③たんぱく質、④水分、⑤長距離のエネルギー源、⑥健康維持、⑦ケガ、⑧サプリメント、⑨特殊環境、⑩ジュニア・女性・マスターアスリート、⑪遠征、⑫特別食、の新たな12のテーマでまとめられています。


今回は、前半のテーマ1~6について書いてみます!


① 栄養の期分け

陸上競技では、トレーニングの期分けが用いられ、栄養面でもそれに合わせた期分けが重要です。図1に、競技での成功要因とそれに対するそれぞれのアスリートが抱えるズレを分析し、そのための練習やトレーニング等の期分け・栄養の期分けを炭水化物・たんぱく質・鉄の3つの栄養素について検討するモデルが示されています。


② エネルギー ⇔ 健康・体格・競技力

2007年版では、女性アスリートの三主徴が取り上げられていましたが、今回は「スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)」へ概念が拡大しています。エネルギー不足(低エネルギーアベイラビリティー)やRED-Sに関して、予防プログラム・早期介入・チームアプローチの重要性が述べられています。


③ たんぱく質 ⇔ 体格コントロール

表2に、たんぱく質摂取のガイドラインがまとめられています。2007年版では、筋量を増やしたい場合のたんぱく質摂取が強調されていましたが、今回は、近年の研究結果を反映し、

・体重の維持・増加目標の場合:1食当たり0.3~0.4 g/kg体重 × 4-5回で1.3~1.7 g/kg体重/日

・減量中・エネルギー不足の場合:1食当たり0.4~0.5 g/kg体重 × 4-5回で1.6~2.4 g/kg体重/日

が推奨されています。


④ 水分

2007年版には、運動2時間前に500㎖といった記載がありましたが、今回は陸上競技の中でも競技による特性やルールの違い、また競技レベルや個人差により、水分摂取のガイドラインの提供・適用は困難であることが述べられています。表3では、非エリートアスリートに対して、競技中に発汗量より多い水分補給を行わないよう、注意喚起が記載されています。


⑤ 長距離でのエネルギー源

表3に、ハーフマラソン/マラソン、20 km競歩/50 km競歩、ウルトラマラソンの5つの長距離レースに関して、レース前~レース中の炭水化物補給のガイドラインが示されています。2007年版にはない新たな情報として、脳・神経系を介した刺激としての炭水化物による「マウスリンス」もガイドラインに含まれています。マラソンより長い超長距離のアスリートに関して、燃料としての脂質利用(いわゆるファットアダプト)についても触れられていますが、ウルトラランナーではすでに脂質利用能力が高い人が多いということと、運動強度が高くなった場合のマイナスのリスクについてのみの記載でした。


⑥ 健康維持

トレーニングや競技負荷/心理的的負荷の管理、衛生面や日常の注意点、免疫/旅行時の下痢/ランナー下痢/鉄の管理のための栄養戦略について、表6にアスリートの健康増進戦略が、案外詳細に!書かれています。免疫のための栄養戦略として、2007年版はビタミンCが挙げられていましたが、2019年版ではエネルギー、たんぱく質、糖質、脂肪酸、微量栄養素(鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンA、ビタミンD)となっています。


次回は、テーマ6~12について、検証します。


陸上競技に関わるスポーツ栄養士の方、指導者やスタッフ、また栄養に関心のあるアスリートの方、ぜひ図表だけでも、原文を見てみられてはいかがでしょうか?


原文の、それぞれのテーマ横の参考文献では、さらにそのコンセンサスステートメントの根拠を検証した評論が見られます。(こうして文献サーフィンが止まらなくなっちゃいます…。)


参考:IJSNEM 2019;29:73-84

(2007年版、日本語訳のダウンロードはこちら ↓)

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