スポーツ栄養と、メカニズム

新しい文献を読んでいたり、以前に読んだ文献を読み返していたりすると、思わぬところで

「そうそう、これ!」

と思える記載や表現に出会えることがあります。



まさに、運命の出会い…



最近起こったそのうちの一つが、「メカニズム」に関する一文です。

栄養はじめ健康科学系の学生さんは、必死でメカニズムを脳みそに刻み込んでいることと思います。

大抵のものは、テストが終わると脳みそからは消えてしまいますが…。

まあ、メカニズムは逃げませんので、あーこれ忘れちゃったなと思った時に、また調べて上の写真のような「メカニズムノート」を作るなり、きれいな図解の写真を整理しておくなりすればいいわけです。学生時代の記憶からでは変わっていることもありますし、例えば学部の教科書には出てこない知識が増えることもありますから。


保健センターで特定保健指導や母子栄養の仕事をしていた時は、日々「メカニズム」を理解して、それを中心に考え、対象者にもそれを伝えることが重視されていました。

「メカニズム」は絶対で、それに沿って考えれば間違えないと思っていました。


でも、IOCのコースでスポーツ栄養を勉強する中で、アスリートにいろいろな栄養介入をしてみた研究を読んでみて、

「メカニズム」だけでは説明のつかないことって、多々あるんじゃないか?

ということに気が付き始めました。


でも、学校で教わるのも「メカニズム」。

健康や栄養の本や資料に参照されるのも「メカニズム」…。



大事なのはわかるんだけど、それだけじゃダメじゃない?



そんな時に出会った文献の一部をご紹介します。


アスリートのサプリメント使用についてのエビデンスを検討する際の、望ましい研究の条件に、動物実験や細胞レベルでの実験が含まれない理由について IOC Consensus Statement: Dietary Supplements and the High-Performance Athlete には以下のように述べられています:

... mechanistic studies on animal and cell culture models are useful in identifying mechanisms, but a mechanism is not necessary to demonstrate an effect that may be meaningful to an athlete. What we think today to be the mechanism by which enhancement of performance or health occurs might be proved wrong by later studies. - Maughan RJ, Burke LM, Dvorak J, et al. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2018;28:107.


私なりに訳してみると、

「動物実験や細胞レベルでの研究は、メカニズムの解明には有効であるが、メカニズムはアスリートにとって意義深いと考えられる効果を示すのに必須ではない。また現在私たちがパフォーマンスや健康を強化するメカニズムだと思っていることが、間違いであったと後の研究で証明されることもある」

という感じです。


本当に、その通りだと思いました。

特にスポーツ栄養はまだまだ発展途上の学問だ、というのもあるのかもしれませんが、私たちの身体のメカニズムで分かっていることって、ごくごく一部だと思います。

メカニズムを示した図の一つの矢印が、

図のとおりにスッといくのか?

実はその間にまだまだ知られていない行程がたくさん隠れているのか?

それとも本当は違う方向にも矢印が出ているのか?

まだまだ人体も、スポーツと栄養の関係も、未知があふれています。

そこが、面白いところではありますが。


メカニズムはまだわからないけれども、効果があることは確認できる、ということもありえます。


今わかっているメカニズムを使って仮説を立てて、実際やってみると思ってもみなかった結果になったという研究もたくさんあります。

それが研究方法などの問題でメカニズム通りに行かなかったのか?

それともまだ解明されていないメカニズムが存在しているのか?

などを検討して、また次の研究につながります。


なので、メカニズムやその研究を軽く見てもいい、ということではなく、

「メカニズムだけで説明がつかないこともある」ということを認識しておく必要があるということです。


専門職たるもの、質問には的確にその場でさっと答えなければならない!

みたいなプロ意識を持っている方も多いかとは思いますが…。


こういう研究ではこういう結果が出て、でも似たような研究では違う結果が出て、

それはこういう理由かもしれない、けどそうじゃないかもしれない!

ということが事実でしかないことだって、あります。


「まだよくわかっていない」ということをきちんと伝えることも、大切だと思います。


なので、「こうあるべき」というメカニズムだけではなくて、

「こうだった」という実際の研究を、教育機関でも、書籍などでも、

もっと取り上げてほしいなと思います。


「スポーツ栄養の根拠となるもの」について以前に「そう、これ!」と思った文献についても書いているので、こちらもご参考ください⇩

今回紹介した文献は、こちら⇩ 来月の「スポーツ栄養士の図書館」でも取り上げます!

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