スポーツ栄養士と、スポーツ栄養を語る
スポーツ栄養士の学びと議論の場として、昨年10月に始動した、Facebook グループ「スポーツ栄養士の図書館」( https://www.facebook.com/groups/757956407985960/ )。
頑固おやじのような管理人(わたくし)が入り口に立ちふさがっているので、①栄養士、管理栄養士、栄養学科の学生、またはスポーツ関連職種の国家資格をお持ちの方で、②議論に積極的に参加する意思がある方、しか入れない図書館なのですが、それでも予想をはるかに超えるメンバーを迎え、「スポーツ栄養のエビデンスに興味がある人って、こんなにいたのね!」とうれしく驚いているところです。
8ヵ月目に入った今月、構想はあったのですがなかなか実現していなかったメンバーミーティング「図書館カフェ」を、オンラインにて開催しました。
管理人の私でさえ、ほとんどが直接お会いしたことのないメンバー。しかも、出欠もとらず、「お時間あればご参加ください!」形式での実施にも関わらず、たくさんのメンバーが参加してくれました!
「図書館カフェ」の後も、メッセージをいただいたり、さらに毎日のようにオンラインミーティングを繰り返したりと、スポーツ栄養士とスポーツ栄養を語りまくったここ一週間。脳みそをオーバーワークさせている感じもありますが、スポーツ栄養について熱く語れる場もつながりもないまま、どうにか一人で勉強しようとしてきた15年間を考えれば、今まさにひとつ「夢がかなっている」幸せな時間なんだと思います。
その中で、「こうあるべきスポーツ栄養士像」のような話題もたびたび出てきたのですが、ちょうど先日受け取った「日本栄養士会雑誌 5月号」にも「めざす管理栄養士像」についての記事があり(下記参照)、日本のスポーツ栄養の世界に限らず、栄養士・管理栄養士の世界が全体として同じような悩みを抱えているんだなぁ、ということをあらためて感じました。
記事に出てきた「めざす管理栄養士像」の3つのカテゴリーについて、スポーツ栄養に当てはめて考えたことを書いてみます。
① エビデンスに基づいた知識を有して多職種と連携できること
「専門職として、多職種と堂々と渡り合いたい!」だから「エビデンスに強くなりたい!」という声は、スポーツ栄養士からもよく聞こえてきます。医療において、管理栄養士が「栄養サポートチーム」の中心になったり、その他の多職種連携チームの主要メンバーとしての地位を確立してきたことと同様、今後スポーツの現場でスポーツ栄養士が「チームの主要メンバー」になることが期待されつつある中、スポーツ栄養士に求められるのは「多職種でもちょっとかじってみればわかる知識」ではなくて、さすがスポーツ栄養士!と言われる「ディープな知識」なのではないかと思います。ただし、スポーツ栄養に関しては、日本で検討を重ねた「食事摂取基準」のような「質の高いエビデンス」となりえるものや、糖尿病や腎臓病患者のための「食品交換表」のような確立されたツールを見つけ出すのが、なかなか難しいのが実情です。その中で、英語の文献からエビデンスを読み込むスキルや時間がない…というジレンマが生まれています。「スポーツ栄養士の図書館」があるのは、その解決策のひとつとしてです。
② 対象者に寄り添った支援ができること
「そういう栄養戦略が有効かもしれない、という根拠は分かった。でも、現場にどう当てはめればいいの?」といった疑問の解決や、「この選手は乗り気だけど、この選手はやりたくなさそう…」といった場合の対応が、「対象者に合わせた (personalized)」支援には必要です。例えば、アスリートには三食の食事だけではなくて補食も重要だ!ということは分かったけれども、現状、自分が関わっているチームでは、食事提供は三食の契約だとします。補食を組み込むなら個人で売店等で購入するのか・・・その選び方にはどんな教育をすればいいか?食事提供に補食を組み込んでもらうのか・・・その予算があるのか?それともチームでプロテインを購入するのか・・・アレルギーや味の好み、反対意見は?といった具合に、環境の整備や教育、説得、コーディネート、選択肢の提案など、コミュニケーション能力とともに多大な時間と労力も求められます。また、日本で健常者への「食事提供」というと、同じ量のおかずが一人ひとり盛り付けられて、「あとはごはんで調整してね」みたいな形式が「平等」と思われがちなイメージです。しかし、例えば体重階級で厳格な体重管理が必要な選手と超級の選手が混在するような柔道の合宿などを考えると、同じ量のおかずを盛り付けて提供することが「対象者に寄り添っているのか?」ということになり、病院食のようなきめ細かい対応の必要性も出てきます。こんな時、似たような状況を克服した経験者に相談できたらいいですよね。
③ 専門的な知識をもとに栄養指導を行うこと
専門的な知識、つまりエビデンスベースな部分というのは①と同様なのかな、と思いますが、栄養を勉強してきた栄養士・管理栄養士なんだから、栄養指導が本業なんだ!というプライドを持ったかたも多いと思います。私も賛同しますし、良いことだと思います。ただ、栄養指導は、専門的な知識と、その中から対象者に合うものを選んで、対象者に合わせてかみ砕く技術があってこそだと思います。以前、「スポーツ栄養の知識が生かせる」という求人を見て働きだした給食会社で、「こんな感じで今後も本社から送られてくるスライドでセミナーをしてください」と言われ見学した内容は…「体重が軽い方が有利」という対象者の競技特性を無視した、単に一般向けのスポーツ栄養の教科書を要約したもの。セミナージャックしたい気持ちを必死で抑えて、終了後に担当者に競技を見たことがあるのか聞いたところ、三年間セミナーには来ているが一回も見たことがないと…。本人は指導ができて満足かもしれませんが、こんなセミナーなら栄養士がうっとうしくなるだけだと思いました。逆に、献立作成や調理ばかりで、全然栄養指導の機会がない!と焦ってしまう人もいますが、エビデンスに基づいて、対象者に合わせた献立で食事を提供できているのであれば、それは単なる食事サービスではなくて、りっぱな教材です。「私はおいしい食事を提供するだけの人ではなくて、食事の提供を通して自分に必要な栄養を学ぶ教材と機会を提供しています」ということを対象者やチームに理解してもらうことができれば、仕事の意義やチームの中での立ち位置も大きく変わってくるのではないでしょうか。そうやってやりたい仕事に近づいていった例もあります。
スポーツ栄養士になりたい!と思っている人も、頑張って資格は取ったんだけど、まだ自分のやりたい仕事ができていない、という人も。
まずは、自分の「なりたいスポーツ栄養士像」をくっきりさせて、自分の強みはどこ、弱いところはどこ、強みを生かせるのはどんなこと?弱みを克服するためには何が必要?ということをじっくり整理して、スポーツ栄養士とスポーツ栄養を語ってみると、いいアイデアが得られるかもしれません。
「なりたいスポーツ栄養士像」はそれぞれの強みに合わせてちょっとずつ違っていいし、人との出会いや経験を通じて変わっても構わないと思います。私も実際、「スポーツ寮の調理のおばちゃんになりたい!」からスタートして大きく変わってきましたから。
オンラインでどこでも繋がれる現代。
熱い思いを持つスポーツ栄養士の皆さま、ディープに語り合いましょ!
参考文献:中西明子. 現役管理栄養士が考える「めざす管理栄養士像」とは. 日本栄養士会雑誌. 2020;63:6-8.
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