生きるためのエネルギー

スポーツ栄養の勉強をしているというと、ふたこと目には

「プロテインって…」

と尋ねられてしまいますが。


スポーツに打ち込む人の栄養を考える場合でも、まず大枠として大事なのが、エネルギーです。


フィギュアスケートの選手や、マラソンランナーなど見ていると、

この人たち、ちょびっとしか食べないんだろうな…。

と思う方も少なくないようですが、彼らはスポーツをしていない同じくらいの体型の人に比べると、はるかにたくさん食べているはずです。


だって、相当な量のエネルギーをスポーツやトレーニングに費やしていますから。


毎日みっちりスポーツに打ち込むような人は、

①スポーツやトレーニングに使うエネルギー

②生きるためのエネルギー

の両方が必要です。


もし、トレーニングの質や量が増えて、①のエネルギーは増えているのに、

食べる量は変わらない、などとなると②のエネルギーが減ってしまいます。


そしたら、痩せるんでしょ、いいじゃない、と思うかも知れませんが。

それだけでは済まない場合も多いのです。


②の生きるためのエネルギーは、身体の働きが健康的に行われ、体重をキープしている状態で、体脂肪を除いた体重あたり45kcal程度必要です*。

つまり、50kgで体脂肪率が20%の人が、トレーニングで500kcal使っているとすると?

体脂肪を除いた体重は40kgなので、②が40×45=1800kcal、①が500kcalで、合計2300kcal程度が体重をキープするエネルギーの目安です。


ここから、体重や筋肉量を増やしたい人はプラス、体重や体脂肪率を減らしたい人はマイナスするのですが、

マイナスする場合でも、②が40×30=1200kcalくらいはないと、②が基礎代謝(起きていて、特に動いていない時に必要なエネルギー)だけにも足りないような状況になってしまい、体はそれに対応しようと省エネ体制になり、骨を作ったり、免疫を保ったり、女性であれば生理が来たりといった通常の身体の働きを弱めてしまったりして、体の不調につながります*。


そうなると、ケガをしやすくなったり、競技成績にも影響が出るという報告も出てきています*。


もし!

監督やコーチの指示は絶対、というような雰囲気がある中で、

生きるために必要なエネルギーが十分に確保できないような、栄養の指示が出されているとしたら…。


悪気はなくても、それはアスリートの健康を脅かす、虐待や暴力と言えるかもしれません。


いやいや、健康を損ねてもいいから競技で勝たないといけないんだ!

というプレッシャーを感じていたり、また自分を追い込んでいるアスリートがいたら…。


どうか、もっと自分を大切にしてほしい。自分を愛してあげてほしい。


スポーツ栄養は、そんなアスリートの健康を守りながら、競技力向上を支えるためにあるのです。


もちろん、ちょっとした体重の変化でバランスを崩して危険があるような競技もあります。

それでも、食べるな飲むなの指導ではなく、いかに体重の変動を少なくエネルギーを確保するかとか、体重の上限を決めてちょくちょく体重を量りながらの水分補給とか、一日の中でエネルギーが不足しないようにする計画だとか、そういうものが必要なのです。


アスリートの健康は、大切です。

それを犠牲にしてもいいだなんて、本人も指導者も思わないでいただきたい。


エネルギーが足りているかの簡易チェックと、足りない場合のアドバイスは、COMO COMEの”採寸キット”として無料で配布していますnoteにて¥300で販売しています(2020. 4. 4更新)。ドキッとした方は、チェックしてみられてくださいね。

*参考文献: IJSNEM, 2018;28:1-19 Burke LM et al. Pitfalls of conducting and interpreting estimates of energy availability in free-living athletes. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2018;28(4):350-363. doi:10.1123/ijsnem.2018-0142 (2020.12.09 参考文献が誤っていたため修正)

2020.4.4. 追記

2020.12.9.  参考文献修正

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