運動、栄養、休養
スポーツも再開し始め、学生スポーツでは集まっての練習再開から一カ月足らずで、最も重要な試合シーズンを迎えています。
…私の住む熊本では、それすらちょっと予定通りにはいかなくなってはいますが。
全国大会への道は閉ざされて、でも気持ちを切り替えて最後の大会に全力で臨もう!という学生アスリートを見ていて浮かんでくるのは、「運動、栄養、休養」という言葉。
スポーツ栄養を仕事にしている私の脳みそでは、「栄養」と「休養」という土台に「運動」が乗っかっているイメージだったり、スポーツ栄養相談所コモコメの考え方としては、「食」と「身体」が「競技パフォーマンス」を持ち上げるイメージなので、「休養」というのは「身体」のところに含まれてくるのですが、Google検索で画像を見てみると、「運動」と「休養」の上に「栄養」が乗っかっているものもあるみたいです…あんまり、しっくりこないな…。
そもそもこれは誰が考えた概念で、「運動」と「栄養」の位置関係はもともとはどうだったのか?と少し気になってしまって調べたのですが、今の厚生労働省が昭和50年代ころから使っているコンセプトらしい…というところまでしかわからなかったです(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22010220.pdf )。
ともあれ。この三つ、ほんとにどれが欠けても、または大きくなりすぎても問題だし、密接に関連しあっているな、と感じます。
例えば、今の現状として…学生アスリートたち、コロナの影響で十分な練習ができたという自信が持てないので寝る間を惜しんで練習してしまう、となると「運動」が大きくなり、「休養」が小さくなる。「栄養」は変わらないとしても「運動」が大きくなったせいでそれを支えるには不足してしまい、結果「運動」つまり競技パフォーマンスが落っこちてしまう危険がある、という感じです。
ワンチャンスに懸ける学生スポーツの重要な試合時期に起こりがちな状況の、この「栄養」、「運動」、「休養」それぞれへの影響を見てみたいと思います。
① 「栄養」への影響
栄養の視点から言うと「運動」が大きくなりすぎたせいで「栄養」で支えきれなくなる状態を「(スポーツにおける)相対的エネルギー不足=Relative Energy Deficiency in Sports: RED-S」と呼んでいます (1)。「たくさん食べているよ」では追い付かなくなってしまうのです。時間的にも夕食が遅くなってしまって、軽めに済ませたりして、「栄養」が小さくなってしまうことも心配されます。もっと問題な場合だと、夏バテしまって食べ物を受け付けずしっかり食べられていないとか。体重が軽い方が有利だったり、体重階級のために必要以上に食べ物に制限をかけてしまっていたりとか。「計画的な減量」であったとしても、想定以上に「運動」が大きくなってしまうと「危険な減量」になってしまう可能性があります。また、「運動」によって「休養」が削られることで、朝ご飯の量や消化吸収にも問題が生じるのではないかと思います。ぐったりして寝てるのか起きているのかわからないまま、よく噛みもしないで朝ご飯を丸のみで流し込んでいる人はいませんか…?寝坊して、朝ご飯を抜いてしまったり。知らず知らずのうちに「栄養」が小さくなってしまうことには要注意です。
② 「運動」への影響
「栄養」が小さくなってしまうと、健康面でもそうですが、運動にも影響が出ます。持久力、筋力に加え、試合時に特に重要な集中力、判断力も下がってしまったり、憂うつやイライラにもなりやすくなります(1)。「休養」が小さくなってしまうこととも合わせて疲れが取れず、ケガのリスクも高まり、大事なところで運動パフォーマンスが「転がり落ちる」、つまり本来の力が全く発揮できなかったり、ケガをして競技自体ができなくなったりといった悲惨な影響が出てしまう可能性があります。試合前には、時間は普段と変わらなかったとしても実戦形式だったりして練習の「質」や「密度」が上がっている可能性はあるので、気持ちは焦るかもしれませんが、いつも以上に余裕を持った練習スケジュールを立てて試合に備えるような心がけが必要かもしれません。
③ 「休養」への影響
練習の時間が長くなってしまって時間的にも「休養」が減ってしまい、さらに夕食が遅くなることで内臓も休まらなかったり、試合前の緊張で寝つきが悪い・眠りが浅いといった問題も考えられます。夏場だと、ほてった体を冷やそうとクーラーを効かせて寝て、夜中に寒くなって目が覚めたりするケースもあるかもしれません。休養や睡眠に関するアドバイスは専門の方がいらっしゃるので、チームで休養の重要性を共有して、学びの機会を設けてみることも、「休養」を小さくしてしまわないことに役立つのではないでしょうか。
「運動」、「栄養」、「休養」のバランスをうまく保つために、誰にでもわかりやすい基準として、「時間」という枠を決めてしまうというのは、一つの手だと思います。
練習が長引いて、夕食が遅くなってしまった、ではなくて、何時に起床だから就寝時間は何時、その何時間前には夕食と逆算し、練習は夕食の時間に遅れないように時間を見ながら集中して行う、と決めてしまうことです。(食事提供する側としても、とっても助かる!)
もちろん、時間はきちんと決まっているんだけど、その練習開始時間や終了時間が遅い、ということもあるので、そういった場合は運動前にエネルギー補給をして、運動後は温かい牛乳など睡眠を邪魔しないものでリカバリーをして寝付きやすくする、といった工夫が必要です。
「睡眠を削ってでも!」という考え方がいかに危険か…せっかくの努力が逆効果にならないよう、「休養」という要素の重要性を試合期には特に意識してほしいなと思います!
参考文献:
(1) Mountjoy M, Sundgot-Borgen J, Burke L, et al. The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad—Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S). Br J Sports Med. 2014;48:491-497. doi:10.1136/bjsports-2014-093502
エネルギー不足については過去のブログもご参考まで↓
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