食品 vs プロテインパウダー
「たんぱく質」をテーマに実施した、今月のウェブセミナー。
たくさんのご参加、ありがとうございました!
一緒に文献サーフィンをお楽しみいただけた方もいらっしゃったかと思いますが、
「プロテイン」に興味があって参加された方には少し物足りなかったかもしれません。
運動後は「プロテイン」と食事と、どちらが筋肉を作るのに効果的か?
という質問がありましたので、今月の「スポーツ栄養士の図書館」でたんぱく質の研究をされているメンバーに紹介していただいた文献(1)を眺めながら、少し考えてみました。
① 運動後の効果を直接比較した研究は見当たらない
運動後のたんぱく質摂の効果の研究は、これまでホエイたんぱく質を使ったものが多くなされてきました(1)。つまり、食事や食品ではなく、乳たんぱく質の中からさらに「ホエイ」を抽出したものです。ホエイだけだと美味しくなくて摂取しにくいので、甘味をつけたもので研究が行われていますので、一般的な「ホエイプロテイン」のシェイクと考えていいと思います。ホエイだったら、筋肉の合成を刺激するのに重要なアミノ酸「ロイシン」が多く含まれるし、吸収が早いので効果が見やすいため、よく使われるようです。ホエイ単体のほうが、何種類かのたんぱく質をミックスしたものより少量で効果が得られるということもあるようです(1)。でも!最近はそうしたプロテインシェイクだけでなく、他の食品・食事についても注目されています。プロテインの売り文句としてよく見る、「不要な糖質や脂質を取らずに済む!」というイメージで、特に脂質などと一緒だと効果が落ちるのでは?と考えますが…。牛ミンチの方がスキムミルクより早く効果が表れる!スキムミルクより普通の牛乳の方が筋肉合成効果が高い!卵白より全卵の方が効果的!といった研究が紹介されていて、もしかしたら栄養豊かな食品・食事の方が、分離された単体のたんぱく質より少ない量でも最大限の効果が見られるのかもしれない、という興味深い考察もされています(1)。このほか、運動後ではありませんが、食事で113 g(対象者の体重当たり0.38 g/kgのたんぱく質)の脂身のない牛肉でも筋肉合成を十分刺激するという研究結果もあります(2)。食事でのたんぱく質摂取もちゃんと効果があるとわかると心強いですね!運動後の食品・食事由来のたんぱく質摂取と、プロテインシェイクによる効果を直接比較した研究はみつかりませんでした。…研究デザインも難しそうですけど。
② プロテインの方が良いかどうかは、状況による
「筋肉をつけたいから、絶対プロテインを飲まなきゃ!」と思っている方も、栄養士・トレーナー等に勧めらたから飲んだ方がいいのかな?と迷っている方も、プロテインを探し始めてみる前に、「プロテインが必要かどうか」をもう一度考えて見られるといいと思います。
1)環境・設備
トレーニングや練習場所に、冷蔵庫やミニキッチンがあるのなら、運動後のたんぱく質で摂取の選択肢はかなり広がります。補食を準備する時間がない時はプロテインが便利かもしれないのですが。冷蔵庫や清潔な洗い場がなく、近くや帰り道にコンビニ等もない場合にはプロテインと水のストックが必需品かもしれません。そんな時は、豆菓子や小魚・ナッツなども便利です。
2)費用対効果
プロテインパウダーって、安いものではない…と私は思います。プロテイン20g(たんぱく質15g程度)と同じ量のたんぱく質が含まれるスキムミルク(40g程度)と比べると、倍くらいはします。プロテインを買うのにお金がかかってしまって、食事が質素になってしまったとなるのは勿体ないことです。スキムミルクとプロテインパウダー、そんなに大差はないと思います…。牛乳や低脂肪乳、ヨーグルトにスキムミルクを溶かしてもおいしく食べられますよ。無理してプロテインを買わなくても、安くで1回分のたんぱく質をとる組み合わせのアイデアを、私のインスタグラムアカウント@tsukiyuki.comocomeに50コくらい載せています(50kgのアスリート向けで、運動後のたんぱく質と糖質摂取のアイデアです。最近さぼり気味で、しかも英語表記ですが…)。バターロール3つと牛乳1杯とか。ご参考まで。お金は心配いらないし、準備する手間の方がもったいない!ということであればプロテインに軍配があがるかもしれません。
3)他の栄養素との関連
たとえば、今のところそういう研究はありませんが、1回のたんぱく質をとるのに、卵が一番優秀だ!としましょう。私の体重だと、1回に3個くらい食べればいい。でもこれを、三食と補食の2回に食べれば、筋肉には最高!…とは行きません。どのプロテインがいいか?に集中しすぎて、毎回の効果を百点に近づけようと努力しても、その結果、糖質など他の栄養素やエネルギー摂取が見逃されてしまい、一日の栄養摂取としての点数はどんどん下がってしまうかもしれません。運動後には糖質や水分の補給が大切だし、プロテインに添加されていない栄養素も食事で補う必要があります。見た目や香りを楽しむ、噛みごたえや食感を味わう、いろいろな食材からいろいろな栄養素が体に入ってくる…そうした食事が、プロテインより「劣ったもの」とはならないよう、視野を広くして食の計画を立てていただきたいなと思います。
あと、アスリートがプロテインなどサプリメントを使う時に気を付けないといけないのがドーピングに引っかからないかと言うことです。認証マークがあるといえども、偽のマークもたくさんある様子…笑。ただのたんぱく質だからと思って購入すると、効果が出やすいように思わぬ物質が混入されていたり、わざとでなくても混入していたり、しかも表示がされていなかったりと、サプリメントの規制は実は甘いのが現状です。オーガニックだからいいとか、自然のもので作ってあるから大丈夫とか、そういうものではありません。禁止の成分があるか、ないかです。
これをきちんと理解していれば、安易にプロテインやサプリメントを勧める・使用するのが危険だということが分かるかと思います。アスリートには、スポーツ栄養士ときちんと食事計画を立てた上で、プロテインやサプリメントを使うかどうかを相談することをオススメします。
あ、ちなみに4月のウェブセミナーではサプリメントについて取り上げてみようと思いますので、そちらもお楽しみに!
参考文献:
(1) Moore DR. Maximizing Post-exercise Anabolism: The Case for Relative Protein Intakes. Front. Nutr. 2019;6:147. doi: 10.3389/fnut.2019.00147
(2) Symons TB, Sheffield-Moore M, Wolfe RR, Paddon-Jones D. A moderate serving of high-quality protein maximally stimulates skeletal muscle protein synthesis in young and elderly subjects. J Am Diet Assoc. 2009;109(9):1582–1586. doi:10.1016/j.jada.2009.06.369
※追記(2020.3.9): たんぱく質を含む補食のアイデアが英語で、しかも見つけにくくなっていたため、PDFにまとめました。下記から¥300円でダウンロードできますので、こちらもご活用ください⇩
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