ジュニアアスリートを守りたい…

※上の画像は「スポーツ栄養士の図書館LOUNGE(Instagramアカウント@sportsnut_lounge)」メンバーにご意見をもらいながら作成したものです。以下の記事はブログ著者個人の意見です。


2021年1月の、「スポーツ栄養士の図書館」のテーマは「ジュニアアスリートの栄養」についてでした。

正直に言って…ジュニアにスポーツ栄養と言っても、スポーツ栄養の元になっている研究って、倫理的な問題もあってほとんど大人のデータですし、勝つため・パフォーマンスを上げるためにどう食べるか?という要素も入ってくるので、子どもや子育て中の家族にとって「余計な知識」になってしまう可能性があるのではないか?という懸念が私の中にはありました。


「スポーツ栄養士の図書館」で今月のメイン文献として取り上げた、オーストラリアのスポーツ栄養士会が2014年に発表した、思春期のアスリートのためのスポーツ栄養についての声明(1)を改めて読んでみて、私の印象に残ったのは、「ボディーイメージと食行動(Body Image, Dieting Behaviors, and the Adolescent Athlete)」というパートでした。

ポイントをいくつか抜粋してみます↓

・思春期のアスリートの食教育や食に関する推奨は、長期的な健康を強化するものであるべきだ

・保護者や指導者は、体形がパフォーマンス要因の一つに過ぎないことを理解し、思春期のアスリートが前向きなボディイメージを持てるよう、擁護者の役割を果たすべきだ

・思春期のアスリートは体重にまつわる様々な意見や中傷にさらされるべきではない

・パフォーマンスとは関係がないのに思春期のアスリートの体形を操作するような食事・トレーニング計画は避けるべきだ

・ボディーイメージに問題があると感じた時には、思春期のアスリートの監督責任者は専門家のアドバイスを求めるべきだ


…日本のジュニアスポーツの現状、いかがでしょうか。

本来、擁護者であるべき人たちからの、心ない言葉にさらされていないでしょうか?

ジュニアアスリートの心と健康、ちゃんと守れていますか?


今月学んだこと、感じたことを踏まえて、スポーツ栄養士の目線から、ジュニアアスリートの周りの大人にオススメしたい3つのこと

1.成長曲線をつけてみる

2.食べる環境を整える

3.小さな変化に気を配る

について書いてみます。


1.成長曲線をつけてみる

保護者の方なら、母子手帳等で見慣れていらっしゃって「お~!懐かしい!」という感じかもしれません。母子手帳に17.5歳までの成長曲線があったか記憶が定かでないのですが…下のリンクから日本小児内分泌学会の様式が PDFでダウンロードできるようです。男の子、女の子でシートが違いますのでご注意ください。これを見て、まず思ったことは…高校生になっても、「体重は増加するのが当たり前」ということ。体重が軽い方が有利だからといって、体重を維持すること、減量することは決して「当たり前」ではないのです。

横軸は年齢になっていて、補助線で1歳分が四分割されているので、補助線一つ分で3カ月間ですね。曲線は身長と体重が示されていますが、体重の下に、右側のスケールの体重1㎏を1㎝として、「一年間にどれだけ身長が伸びたか」を追加で記録してみると、身長がぐんと伸びる「成長スパート」が確認できます(2)。成長スパートが見られないのは、エネルギー不足の表れである可能性があります(2)。

せっかくなので私も、記憶をたどって曲線を描いてみました。毎年5㎝ペースだった身長の伸びが、小学六年生の時に一気に10㎝伸びて、うれしかったな。でも今度は中学一年生にかけて体重が一気に8㎏くらい増えて、初めての生理が来たのは…受け入れがたくて、「自分は太ってしまった…痩せないと」と感じてしまい、そこから体重の変化は不自然な形になります。こうした大きな体の変化の時期に必要なのは、一緒に成長を確認しながら、変化を受け入れられるように支えてあげることなのかなと思います。

身長体重とも大きく上に外れる子もいるかと思いますが、「その子なりの成長曲線」があります。体重が上に外れる子で、運動習慣がない場合や、生活習慣病の家族歴があったり偏食がある場合は注意が必要ですが、スポーツをしている子で男女を問わず問題になりやすいのは、

・身長/体重が平均の-2.0 SD曲線より下

・高校生になっても身長の成長スパートがない

・身長のスパートはあったけれども体重は低いまま

またそれに関連して、

・高校生になっても生理がまだ来ていない/止まってしまった

・疲労骨折を繰り返している

というような状況やこれらの組み合わせかと思います。かかりつけの小児科医や、生理の問題なら婦人科医、骨折の場合は整形外科医等に、成長曲線の記録を見せながら相談すると、問題が伝わりやすいかもしれません。

2.食べる環境を整える

食べる環境、というと「食事の時はテレビをつけない」とか「車の中ではなくてちゃんと食卓で」みたいなことをイメージされるかもしれませんが、もっと大きな枠での食環境の整備も必要ではないかと感じています。

例えば、朝練があって朝ご飯をしっかり食べると胃が重たくなってしまうから軽めにして、でも中学校などは飲食物持ち込み禁止のところも多いので、朝練後に追加でなにか食べることは難しいとか。給食がある場合では、給食センターの配送の都合で一番最後に届き、かつ一番最初に食べ終わらなければならないので、いつもとにかく急いで準備→食事→片付けをしている学校があったり。クラスの子のほとんどが運動部に所属したりして、給食は奪い合いで、お腹いっぱい食べられることはまずありえないとか。放課後の部活も、お腹がすいた状態で運動を始めざるを得ないとか。休みの日や合宿など長時間の練習の時も、間食の時間はないし、途中の水分補給もスポーツドリンクはNGとか。なぜか昼食はおにぎりしかダメだったり。

子どもたちの健康と、学校内の規律等を両立させて折り合いをつけられる方法が、状況によってそれぞれではあると思いますがきっとあるはず…という議論が、周りの大人も入ってできたらいいなと思います。いろんな立場の人の、いろんな価値観が交錯するところなので、簡単にはいかないでしょうけれども。


3.小さな変化に気を配る

私自身、中学校時代「痩せないと」とは思いつつも、特にダイエットに取り組んだわけではなかったのですが(茶道部だったので、運動部のように体形へのプレッシャーはなかったですし)、志望していた高校の説明会にあまりに失望し、すっかり食欲がなくなって、1カ月ほどで7㎏くらい激ヤセしてしまったことがあります。ちょっとした潜在意識と、ほんの些細なきっかけでした。自分では「なんか痩せてく、ラッキー」くらいな気持ちでいましたが、気が付いてくれたのは母で、大好きなはずのお寿司を一口しか食べない→なんかおかしい?、一緒に温泉に行った時に、栄養失調の子どもの写真で見るような肋骨の浮き出し方とお腹の出っ張り方→ヤバい!!となって「食べないと、死んじゃうから!!」と繰り返し説得してくれ(当時は煙たがっておりましたが)、また食べられるようになりました。

思春期の摂食障害や心の病は、深刻になってしまうケースもありますから、近くの大人だから見える「些細な変化」に気付いて、気にかけてあげるというのは大切な役割だと思います。監視が厳しくて束縛感がありすぎると、それもまた逆効果になりえるので難しいところではありますが。

エネルギー不足になってくると、使うエネルギーを減らそうと体が順応していってしまうので、以前は時間があるときは食事の準備や家事を手伝っていたのに、それができなくなったとか、自転車で通学できていたのに、今はそれもきつそうとか、長風呂だったのに最近はさっさと上がるとか、朝寝坊しがちになったとか、一見、だらけているだけのように見える変化が、本当はSOSかもしれません。

食べるのが怖いとか生理が来なくなったなどは、なかなか自分からは言いにくいかもしれないので、一緒に食事をしてみて違和感がないかとか、お気に入りだった服を着なくなったとか、ナプキンの減りが遅い?とか、最近生理用ショーツ見かけてないなとか、そういうふとしたことがヒントになるかもしれません。

なるべくさりげなく、でも「ちゃんとあなたの健康を気にかけているよ」という姿勢を示してあげられるといいのかなと感じます。


上に挙げたようなこと、「保護者がすることでしょ」と思うかもしれませんが、家庭環境によっては保護者には難しい場合もありますし、保護者だけでは気が付けない/解決できないことだってたくさんあると思います。

ジュニア期のスポーツ栄養の役割は、子どもたちが健康を維持しながら安心してスポーツに打ち込めるように、食環境を整え、周りの大人を含めて教育をし、栄養問題を、できるだけ根本のところから改善していくことだと思います。

小中学生から疲労骨折を繰り返したり、ジュニアでも減量が当たり前になっていたり、生理がなくてもスルーされていたり…スポーツ現場の現状を考えると、悲しくなってしまいますが…少しでもジュニアアスリートを守れるように、できることを探していきたいです。


参考文献:

(1) Desbrow B, Mccormack J, Burke LM, et al. Sports Dietitians Australia Position Statement : Sports Nutrition for the Adolescent Athlete. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2014;24:570-584. doi: 10.1123/ijsnem.2014-0031

(2) 松本善企,松田貴雄. 症例報告 長期にわたるエネルギー利用度の低下により成長スパートが欠如し,競技復帰が困難であった女性アスリートの三主徴例. 日本臨床スポーツ医学会誌.2018; 26(3):490-495.

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